『吉本隆明と「二つの敗戦」-近代の敗北と超克ー』
とよたもとゆき著
“戦後最大の思想家”と呼ばれる吉本隆明。しかし、晩年の彼は明らかに引き裂かれていた。
彼は「二つの敗戦」を体験している。
ひとつは、二十歳のときに、太平洋戦争の敗戦。この「第一の敗戦」は、近代戦争のなかでの敗戦だった。
もうひとつは、晩年の今世紀初頭に迎えた敗戦。貧困、格差社会、親の子殺し、子の親殺し、集団自殺、心の病い……彼は時代の病いを鋭く受けとめ、「第二の敗戦期」と呼んだ。福島第一原発の事故がこれに追いうちをかけた。それは、近現代の敗戦にほかならない。
そして晩年、意外な慨嘆を率直に遺した。
いったい、彼に何が起こっていたのか。
その「引き裂かれ」を直視し、遺言(「存在の倫理」)を真摯に受けとめることが、「第二の敗戦」(近現代の敗戦)から歩みを前に進める前提になるはずだ。
~本書は、2013年刊『吉本隆明と「二つの敗戦」』(脈発行所刊)が絶版品切れのための[新装増補版]~
○青春時代の不気味な予言
○谷中銀座の庶民・吉本隆明
○「大衆の原像」というOSとその危機
○「関係の絶対性」と「観念の相対性」
○原発と「科学の進歩」
○ハイ・イメージ論とインターネット
○ハイデガーと吉本の技術論
○「史観の拡張」は実を結んだか
○晩年漏らした率直で意外な慨嘆
○「存在の倫理」と贈与
【今回の新装増補版への追補原稿類】
「吉本隆明と小林秀雄」
「谷川雁と吉本隆明」
モノクロ写真(谷中銀座、初音小路)
【目次】
新装増補版 はしがき
序 「二つの敗戦」に直面して
1 「第一の敗戦」でつかんだこと
2 なぜ「反・脱原発」を批判したのか
3 軋みと危機
4 「第二の敗戦」で問われていること
5 「存在の倫理」から「贈与存在の倫理」へ
[補]谷川雁と吉本隆明
[補]吉本隆明と小林秀雄
新装増補版 あとがき
[資料]吉本隆明の言葉と略年譜