戦後75年目の夏を迎えます。昭和、平成、令和と元号が変わっても、「戦後」というもう一つの呼び名を忘れることはできません。写真家の松村明さん(福岡市在住)は永年、原爆の被災地、長崎の記録した写真集を刊行されてこられました。この写真集は、四分の三世紀という「戦後」を生き抜いてきた長崎原爆の被爆者53人の肖像写真を収めたものです。
写真は、心の中まで映し出します。爆心から5キロ以内で閃光、熱線、爆音、爆風そして放射能という被爆の瞬間、稀有の体験を被爆者の方々はどのように記憶しておられるのだろうか。また、その後の苦難をどう生き抜いてこられたのか。松村さんは「この”奇跡の人”たちのお顔、とくに目や視線から心の中の記憶を写し出すこと」を試みています。
「”涙に滲んだ眼差し”との対話」と題して高橋眞司さん(哲学者)は「被爆者一人ひとりのお顔に、原爆に屈服することのない威厳が備わり、かつにじみ出ている」と評しています。同時に、歴史に刻み、後世に伝えようという責務や、被爆者に向き合った一人の写真家として熱い思いも伝わってきます。長い間、長崎原爆の写真を撮り続けてきた松村さんにとっても渾身の写真集です。
それぞれの肖像写真には、生年と被爆当時の年齢、被爆地、爆心地からの距離、被爆の瞬間、その後の記憶、伝えたいメッセージも添えられており、総合的な証言集にもなっています。日本語と英語で掲載されており、世界に広く届けていきたいものです。
(写真は、谷口稜曄・元長崎被災者協議会会長。同写真集から)
《著者略歴》 松村明(まつむらあきら)
1946年 京都生まれ。1969年 日本大学芸術学部写真学科卒。毎日新聞社入社。
1977年 カメラ毎日編集部。
1995年 毎日新聞連載「戦後50年暦の断層」 東京写真記者協会企画部門賞受賞。
2005年 写真展「眺めの向こう」新宿ニコンサロン。九州造形短大写真科教授。
2010年 写真集「ありふれた長崎」あの日から65年・窓社。
2011年 写真展「ありふれた長崎」長崎県美術館 福岡アジア美術館ほか。
2013年 写真展「松村明退任記念展」九州産業大学美術館。
2015年 写真集「Evidence NAGASAKI」冬青社。写真展「爆心1㎞」JCIIフォトサロン
単行本: 136ページ
出版社: 長崎文献社 (2020/7/10)
言語: 日本語
ISBN-10: 4888513384
ISBN-13: 978-4888513388
発売日: 2020/7/10
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