(いただいた本から)「リニア中央新幹線をめぐってー原発事故とコロナ・パンデミックから見直す」(山本義隆著、みすず書房)
「リモートがリニアのニーズを消していき」
(仲畑流万能川柳、2020年8月9日毎日新聞)
なぜこの国では、不合理が巨大プロジェクトが暴走してしまうのか。科学史家の山本義隆さんから送られてきた本を一読し、深く考えさせられた。
コロナ・パンデミックを機に見直すべきものの象徴としてリニア中央新幹線計画をあげているが、その根本を見直すことで福島原発事故後、コロナ禍以後の社会のあるべき形を提言している。
安倍政権下で事実上国策化した超伝導リニア計画は、深刻なエネルギー問題や大規模な環境破壊を突きつけている。新幹線の4倍もの電力を必要とし、原発稼働が欠かせない。中央一極集中を進め、「6000万人メガロポリス」構想という虚妄、大深度法による環境破壊、さらに巨大事故をいかにふせぐのか、疑問は尽きない。
もともと総事業費を全額自己負担とするJR東海の計画が、安倍政権下でほとんど公の議論がなされないまま国費が投入され、国家プロジェクトと変質した。その経済性・収益性への予測は甘く、金融の常識を大きく外れたものとなっている。
日本の政治中枢の権力の私物化、ナショナリズムと科学技術の結びつきによって不合理で時代錯誤のプロジェクトが進行している。コロナ禍以後の、持続可能性が強く求められている世界で、この問題をどう受け止めるのか。決然と、直球で問いかけている。
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若いころ、電気関連の技術者の道をおちこぼれ、新聞記者になって国鉄分割民営化を担当した30数年前、宮崎のリニア実験線で試乗し、わくわくしたことを思い出す。10数年前に中国・上海で空港と中心部を結び、商業運転を始めたリニアモーターカーにも乗車したが、何の感動も覚えなかった。
そのリニア「上海トランスラピッド」は試験走行では時速500km超を達成し、乗客を乗せた通常の営業運転でも最高時速430kmと、切符さえ買えば「誰でも世界最高速が楽しめる鉄道」として親まれてきたようだが、新型コロナウイルスの感染拡大のあおりで利用客が激減したという。今春から全列車の最高速度を時速300kmに引き下げたが、乗客が減少する中での運行コスト削減や施設の老朽化などを指摘する声がある。
いま、地下深くを貫いていくリニア中央新幹線の必要性はまったくもって理解できない。さて、このまま巨大プロジェクトの暴走を見過ごしていいのだろうか。