(いただいた本から)「訴歌(そか) あなたはきっと橋を渡って来てくれる」(編者阿部正子、皓星社)
「抗い、生き、歌った!」と本の帯にある。ハンセン病療養者1000余人もの魂からの叫びが聞こえてくる。「訴歌」とは、過酷な状況のなかで生きていく思い(訴え)を受け止めたいと名付けられた言葉だ。
ある日突然、隔離された少年・少女や若者や幼い子をもつ母親や父親たちのさまざまな思いが歌われている。世の中から亡き者とされた人々が療養所で俳句、短歌、川柳と出会い、魂と魂がぶつかり合うような環境で歌を詠み続け、まさに歌は命の証(あかし)である。
病気の進行によって視覚や嗅覚・触覚を失っても、残された身体感覚で四季の変化を感じ、日々の喜怒哀楽、人の生と死、望郷の念……を愛しく、伸び伸びと詠んでいる。
全国13の療養所の入所者はほぼ1000人、平均年齢は80代後半だという。過酷な体験を聞く機会は失われつつある。ここでは、戸籍を取り寄せて母の死を知った嘆きや、失明して心が穏やかになった歌もあり、目にとまった歌をいくつか紹介する。
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濃き闇の向(むこ)ふになにが在る思ひ心に持ちて歩みつづける。
(赤沢正美)
口に針くわへ引きつつ縫ひいそぐ夜なべの妻に甘藷焼きけり
(長瀬実津緒)
枕辺に尋ね来ませし我夫よ子供の母を迎へしと言ふ
(八代てるみ)
身内うすく誰にみとられ逝きましし抄本の母に亡の文字あり
(永井静夫)
見らるるとすくむ思いもなくなりて杖ふりて行く葉桜の道
(大津哲緒)
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この本は「ハンセン病文学全集」(全10巻)に収められた3300余の歌(俳句、短歌、川柳)を抜粋し、少年少女による約300の作品も収められている。「逢いたい」「墓を掘る」「笑い合う」などの小見出しで分類し、それぞれの歌に込められた思いをわかりやすく伝えている。(定価 1800円+税)
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