(いただいた本から)『村上春樹のタイムカプセル 高野山ライブ1992』(加藤典洋、小浜逸郎、竹田青嗣、橋爪大三郎ほか)
30年以上も前の1992年2月22日、厳冬の高野山で村上春樹をめぐる「ライブ討論会」があった。徹夜で熱く語りあったそのときの記録が今月出版され、「タイムカプセル」のように届けられた。1992年とはどんな年だったのか。日本経済のバブルが弾け、冷戦が終結し、「失われた30年」が始まったころだ。混迷する時代のなかで、多くの人が手探りで生き方、考え方を模索していた。
そこで、そのころの時代の空気を濃厚に反映し、広く読者に受け入られていた村上春樹の作品を手掛かりにして、団塊の世代の論客たちを中心に、時代とどのようにかかわっていくのか、徹夜で語り合ったのだ。
その後、オウム真理教、阪神大震災、「9・11」からのアフガン、イラク戦争、さらに東日本大震災など多くの事件が起きた。あれから30年、どのように考えて、生きてきたのか、あらためて考えさせられる。
橋爪氏はいう。
「いまの時点から当時をみると、こう考えるべきだった。こう行動すべきだった、と思いつく点が多くある。30年の時を経るから、誰でも気がつく。しかし当時、時代の渦中にいた人びとが、それを気づくのは容易でない。この30年、無為でいたわれわれが、どれだけの機会を失ったのか、思い至るだろう。」と。
さらに「ひるがえって、現在もまた、現在の意味を気づくのが容易でない時代だ。いや、むしろ困難は深まった。」として、「過去」に軸足を置いて、歴史の方向を見つめる意義を強調している。
私を含め、団塊の世代が後期高齢者世代になり、時の流れにのみこまれていく姿を改めて見つめさせてくれる本だ。
(而立書房刊、2200円+税)
恥ずかしながら、当時の私の記事を添付しておく。討論の内容をうまく伝えきれていないことを思い知らされる。